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Getting Over It レビュー

Getting Over ItGetting Over It
アクション マゾゲー
Bennett Foddy(個人、アメリカ)
価格 600 円、買い切りアプリ
レビュー公開:2018/1/16
iPhoneSteam

悪意。プレイヤーを傷つけるために。by 作者

壷に入った男がハンマーを片手に険しい山を登っていく、ただひたすらに難しくてイライラするマゾゲーが、ネット上でやたら評判になっています。
Getting Over It」です。

Getting Over It

このゲームはテレビでも何度か紹介されている、激ムズ爆笑短距離走ゲーム「QWOP」を作った方の作品です。
QWOP は1歩踏み出すことさえ困難な難易度と、ハデにすっ転ぶユニークさを併せ持つ、超バカゲーでした。

そんなバカゲークリエイターによる新作と言うことで、ヘンな方向で注目されていた作品。
その意味でこのゲームは、ユーザーの期待以上のものだと言えます。
奇妙なキャラクター、クセのある操作性、過剰に困難な障害物、プレイヤーをイライラさせるゲームデザイン。
それは自他共に認めるクソゲーであり、そしてゲーム中、なぜそこまでクソなのかを開発者が自ら語ります。

一方で、不条理なほどの難易度だからこそ、そのクリア動画には視聴者が殺到。
結果的に大きなブームを巻き起こしています。

価格は 600 円。買い切りゲームなので課金・広告・スタミナ等はありません。
スマホ版はタッチパネル故に PC 版より操作が難しいのですが、この作品は難しさを愛でるゲームなので、それは愛好家にとってはむしろ僥倖でしょう。

Getting Over It 岩場
Getting Over It 縦穴

このゲームの主人公は、上半身は筋骨隆々、手にはハンマーを持ち、下半身はツボになっている、不思議なツボ男。
彼が何者なのかは一切語られません。
そしてこのゲームにおいて、そんなものはどうでも良いことです。

画面をスライドすると、ハンマーの先端が動きます。
このハンマーを支点として、自らを持ち上げ、引き寄せ、時に投げ飛ばすことができます。
これを利用して様々な障害物を乗り越え、そびえ立つ山を登っていきます。

しかし操作に独特のクセがあり、思い通りに動くのは熟練の技が必要です。
最初に出てくる一本の枯れ木、これを乗り越えることさえ、最初は困難でしょう。
その後の岩場を登ることは、人によっては1時間近くかかるかもしれません。

しかも非情にも、些細なミスでツボ男は落下してしまいます。
難しい操作にめげず、努力と根性で岩山を登り、ようやく頂上が見えても、少しハンマーを動かしミスっただけで転落し、たちまち麓まで逆戻りです。
今までの苦労は水泡に帰します。

そして追い打ちをかけるように、開発者の「あー、これは悔しい」「お悔やみ申し上げます」といった煽りコメントが聞こえ、時にはバカにしたようにポップな音楽が流れます。

物理シミュレートされた動きは滑らかで、グラフィックの書き込みも細かく、クオリティは低くありません。
しかし、ただひたすらにマゾい。

この作者がかつて作った QWOP も、やたら操作が困難なゲームでしたが、あちらは失敗した時の様子が可笑しく、それを楽しむゲームでした。
しかしこちらのミスに笑いの要素は一切なく、プレイヤーを落胆させるものでしかありません。

Getting Over It 序盤
※最初の枯れ木、次の岩場。
多くのプレイヤーは、ここでもう挫折しかねません。

このゲームは私的には、全くお勧めできません。
私は元々、死にゲーやマゾゲーは嫌いです。そして、このゲームはその極地。
難しい操作に四苦八苦するプレイヤーに、ただひたすら難解な障害物をぶつけ、苦労させることしか考えられていません。

人気のある死にゲー / マゾゲーというものは、そういうゲームでありながら、手前から復帰できたり、いずれ打開策が得られるような、マゾゲーなりのバランスを考えて作られているものです。
しかし、これはその逆。

一応、失敗してもリカバリーできるように作られているのは感じます。
うまく登れなかったとき、そのまま落下してしまうのではなく、途中に着地できる地点が用意されています。
しかしその着地地点に乗れなかった場合、とんでもなく、全ての苦労をムダにするほど戻されてしまいます。
いや、むしろ、何度も失敗しているうちに結果的には戻されて、故意にプレイヤーをウンザリさせる作りになっています。

極論すると、ただ難しいだけのゲームは、プログラムさえ書ければ誰でも作れます。
しかしそれではプレイヤーは楽しめない。
だから時間をかけてバランスを調整し、テストプレイヤーの意見を聞いて、どうすれば良いものになるのか工夫を重ねながら、ゲームを作っていきます。

しかしこれは、そういうものとは違う。
マリオメーカーで小学生がただ難しいだけのステージを乱発し、任天堂が「これじゃあ作る方は楽しいかもしれないけど、遊ぶ方は全然楽しくないよ」という話を、わざわざ公式にコメントしなければならなかったことがあります。

このゲームは、そのマリオメーカーでクソコースを乱発し、失敗するプレイヤーを思い浮かべてほくそ笑んでいた人々を思い起こさせます。

Getting Over It 廃ビル

Getting Over It うんてい

と、ワザとくどいゴタクを並べてみました。
なぜか?
それはこのゲームがまさに、開発者のゴタクをプレイ中に延々と聞かせるものだからです。

まるでクソゲーを作った言い訳を述べているかのような、開発者の信念だか主張だかを、落ち着いたジャズの調べに乗せて、つぶやくように淡々と語り続けます。

「不必要なぐらいに難しい要素があって、でもこれを簡単にしようとは思いません」
「この妥協を許さない難しさに本物の価値を感じます」
「正しい方法論や膨大な時間、揺るぎない信念によって、障害物は突破していけます」
「それを乗り越えられないのはプレイヤーの能力が足りないだけだと思うのです」
「山登りという行為にイライラや葛藤は欠かせない要素であり、美しき価値です」
「それを登頂しようと何度も試みることで、それは現実の山になります」
「店舗に売られているゲームはゴミ同然です。食べ物のように腐るからです」
「B級映画、B級音楽、クソゲー。ゴミから文化は作れますが、それはゴミの文化でしかない」
「どうせインターネットの埋立地に放り込まれるなら、破壊的な何かを作ってもいいのではないか」

こうやって台詞を並べると、哲学的なように見えて、あまりに乱暴で独善的に思えます。

しかしこうした語りを、まるで開発者がプレイヤーの横にいて自ら話しているかのような、もしくはオンラインチャットでリアルタイムに述べているかのような様子は、かつてなかった雰囲気を醸し出しています。
この語りによって、このゲームは単なるマゾゲーではないものに変わっています。

ともすればこの作品は、そのゲームについての語りを聞きながらプレイをする、それこそが最初のコンセプトだったのかもしれません。

Getting Over It 積もる廃棄物

Getting Over It ダンボール地帯
※朽ちた廃墟の前で語られるのは作品の腐敗。
それがゴミとなって埋もれていく話の時には、積み重なる廃棄物とダンボールのシーンが。
意味不明なこの山は、開発者の語りを形にしているのかもしれません。

このゲームが大成功している理由は、「SNS と動画配信の時代に登場したマゾゲーである」という点に尽きると思います。

マゾゲーだからこそ、とんでもなく難しいゲームだからこそ、クリアすれば自慢になり、それを動画として公開したくなる。
簡単なゲームをクリアしたって、それは当たり前であり、自慢にもなりません。
見る方だって超絶難解なゲームのクリア動画だからこそ、見応えがある訳です。

そうやって話題になれば、さらに挑戦したプレイヤーの幾人かがクリアを達成し、動画を上げます。
それが繰り返されてネットで評判となり、好循環が生まれます。
中には全然先に進めず、イライラして発狂する様子を面白おかしく編集している Youtuber もいますが、それもこのゲームの動画の有り様でしょう。
このゲームはインスタ映えならぬ、Youtube 映えするゲームな訳です。

しかしだからと言って、人には勧められません。
このゲームの価格は 600 円。 それはコンビニ弁当1個分の値段に過ぎませんが、最初に出てくる木や岩場をクリアできず、早々に放り投げてしまうのであれば、その 600 円はあまりに高い金額です。
そうであるならば遅い初詣にでも行って、神社の賽銭箱に投げ入れた方がよっぽど有益です。
そして大半の人は、そうした結果に終わるでしょう。

ただ、ここまで話題になっているのであれば、そのことによって生じる「やり甲斐」があります。
このゲームをある程度進められるようになれば、少なくともそこいらの無名のゲームをクリアするよりも、よっぽど人へのアピールを得ることができます。
もしあなたがそうしたものを求めていて、一人で黙々とストイックにマゾゲーに取り組むことができるのならば、この山に挑んでも良いかもしれません。

Getting Over ItGetting Over It(iOS 版、App Store)

Getting Over It(PC版、Steam へ移動)

※Youtube 公式 PV

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